カジファブリック
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『ザ・ワイドショー』③ 佳奈の場合
『今日の夜暇?仕事早く終わりそうなんだけど会えない?』

『大丈夫だよ☆仕事何時頃に終わるの?』

『多分6時半にはあがれるから7時に池袋でいい?』

『いいよ。じゃあ7時に西口ね。仕事頑張ってね(^-^)/』

ティーブレイクにはまだ少し早い昼下がり。
取引先までの電車の中、彼氏とのメール。
勤務中で唯一心休まる時間。
一つ下の大学生の彼氏は、授業中でもすぐ返信してくれる。
たった20分の乗車時間でも『RE:』が何個も連なる。
メールで愚痴を言ったり、時に励まされたり。
いつも私の方が一方的に言いたいことを送っている。
きっとうっとうしいときもあると思う。
神田駅近くでおぎやはぎを見たなんて本当にどうでもいいことなのに、
『俺も見たかった』
なんて反応をしてくれる。
向こうだって忙しいだろうし、そういう会って話せばいいことをメールで送るのはやめようと思うのだけれど、次の日には忘れている。
私の話を聞いてもらいたいのか、彼のやさしさに触れていたいのか。
それとも。。。




彼氏と出会ったのは、今から半年前。
短大時代の友人に誘われて行った合コンだった。
初めは仕事もあるしと断ったけれど、当日になって人数が足りないからと頼み込まれ参加した。
友人は有名大との合コンに意気揚々としていたけれど、私は新社会人の疲労がピークに達していて早く帰ることだけを考えていた。
だから、その時のことはよく覚えていない。
彼とも多分ほとんど話していなかったと思う。
2次会には参加せず、儀礼的にメアドを交換して帰った。




「次は~、新宿~、新宿~。」

一旦山手線を降りて中央線に乗り換え。
四ッ谷から市ヶ谷、飯田橋にかけての眺めは最高だ。
城跡の堀の縁を沿うように走る橙色の電車に、大都会の中心にあってなぜか時間が止まってしまったような錯覚を覚える。
春になったら、彼と歩きに来ようと思っている。
きっと白と淡いピンクで染まった道を。






『おとといはお疲れさまでした。あんまり話せなかったですね。またみんなで遊びましょう。』

合コンの後、最初に届いたメールは彼からではなく、彼の友達の大介君からだった。
気さくで話しやすい大介君に、私自身話し相手を求めていたこともありすぐに仲良くなった。
お互いにくだらない話で盛り上がっていた。
また飲み会をしようということになり、2:2で飲むことになった。
その時大介君と共に現れたのが今の彼氏だった。
私は忘れていたけれど、彼は合コンの時のことを覚えていた。
「スーツで来てすぐに帰っちゃったよね。」
と言われた。
「疲れてたからね」と笑って返した。




その後、私は彼に傾いていった。
大介君はいつも私を笑わせて元気を与えてくれたけれど、私は話しを聞いてもらいたかった。
なんでも真剣に聞いてくれる彼は私にとって大きな心の支えになっていた。





彼と付き合うことになって、そのことを大介君に伝えた。
メールは返ってこなかった。





『ご飯何食べる?』

『何でもいいよ。リュウちゃん何か食べたいものある?』

『焼き鳥とか。無性にパエリアも食べたかったりする。』


彼の名前はワタル。渡流と書いてワタルと読む。
私は彼をリュウちゃんと呼んでいる。「流」だからリュウ。
ワタルって呼び捨てにするのも変だし、私の方が年上だからといってワタルちゃんと呼ぶのも赤ちゃんをあやしているみたいでしっくりこない。
一番言いやすかったのはリュウちゃんだった。と彼には説明している。
本当は私の昔好きだった人もワタルだったから。
好きと言うより憧れだった。
もう未練も特別な感情も何もないのに。
多分部活で「ワタル先輩」と呼び続けていたから。
体に染みこんだ思春期の思い出はなかなか卒業してくれない。
きっと春になれば、舞い散る桜と共に・・・。





「まもなく~、東京、東京、終点でございます。お忘れ物のないようお気をつけてお降り下さい。」


午後3時。まだ肌寒いが、強い日差しに春の近づきを実感。
大学にいる彼もこの透き通る空気の下で春の息吹を感じているのだろうか。
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by live-is-my-life | 2006-02-23 01:27 | 戯言